お菓子をくれなきゃいたずらするぞ
久保 遥空
「トリック・オア・トリート」それはハロウィン限定の魔法の言葉だ。
この日であったら仮装ができるし、大人たちに呼びかければ決まっておいしいお菓子をもらえる素敵な日。
僕は一年の中でハロウィンが一番大好きだ。だから今年も指折り数えてその日を待っている。
「けいたくんは、なんの仮装するか決まった?」
友達のともきが聞いてくる。僕はからからと笑った。
「今年ももちろんお化けの仮装をするよ」
去年も一昨年もそうだった。僕がする役は変わりはしない。するとともきくんは「ふーん。そっか」そういって頷いたあとで、ベンチから立ち上がった。
「僕はドラキュラにしようかな、なんかかっこいいし」
「いいんじゃない?百均ででかい牙買おうよ、こんなのさ」
僕は両手を歯に見立てるように口元にもっていって、いーっと歯を見せた。するとともきくんは笑って「いいね」そういった。
「それと尖った耳も必要だね、あれがなきゃドラキュラって言わないよ」
「そうだね、それも買おう」
僕も団らんしていたベンチから立ち上がった。ともきくんが歩き出したから、僕も一緒になって隣に並んだ。
空はどんよりとした曇り空だった。ともきくんは僕を見ると、立ち止まって問いかけてきた。
「ねえけいたくん、どうして僕なんかと仲良くしてくれるの?」
僕はまたからからと笑ってしまった。
「だって僕たち、いじめられ仲間じゃないか」
そういうとともきくんは足を止めた。
僕たちはいじめられている。学校に足を運べば野次を飛ばされるか無視をされる。先生だって僕たちのことは見て見ぬふりをする。
バケツの水を頭からかけられたり、上履きに画びょうを入れられていたこともある。それでも大人たちはなにもしないのだ。
ともきくんは悲しそうな顔で「そうだね」そういった。僕は話題を変えたくて、明るめに声を出した。
「ねえ、仮装したら誰の家に行こうか?」
「そうだね、お母さんのところにまず行くでしょ、それからけいたくんのおうちにも行って、あとは町のスーパーに行こうよ」
「いいねいいね、じゃあ僕のお母さんにはたくさんお菓子を用意するよう言っておくよ」
「うん、僕もそうする」
お互いくすくすと笑いあう。そうしていると不意に、後ろから声がかかった。
「おい」
その声は聞き覚えがあった、僕たちをいじめる一人のたけるくんだった。
「たけるくん」
僕が振り返ってそういうと、ともきくんは少しだけ肩をすぼめて、「なに」そういった。
「そういうの、もうやめろよ。だからいじめられるんだろ」
たけるくんがそういった。ぎゅっと裾を握りしめながら言うたけるくんは、いつも学校でいじめてくる時とはなんだか雰囲気が違うような気がした。ともきくんがおずおずと口を開いた。
「そういうのって、なに」
その声は少しだけ震えている。それはそうだ、僕だって背中は冷や汗でびっしょりだ。これから何をされるのか考えるだけで足が震えてしまう。だからともきくんの手をぎゅっと握った。そうして僕もたけるくんに「なんだよ」と聞いた。するとたけるくんは言った。
「だから、そういうのだよ」
たけるくんはそれしか言わなかった。僕たちは目を見合わせて、一斉に逃げ出した。かけっこなら得意だ、それはともきくんも同じことだった。
「おい!」
後ろから叫んでくるたけるくんのことは無視した。一人だったら逃げ出せなかったかもしれないが、二人だったら逃げだすことができるんだ。
僕たちは二人なら、少しだけ強くなれるんだ。
「トリック・オア・トリート!お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」
ハロウィン当日、僕たち二人はそう言ってまずともきくんのおうちでたくさんのお菓子をもらった。
「次は僕の家だね」
僕が笑ってそういうと、ともきくんも「うん」そう頷いた。
二人手をつなぐ。僕は白い布を被ったお化けで、ともきくんは鋭い歯と尖った耳を付けたドラキュラだ。
「トリック・オア・トリート!」
おうちのインターホンを押して、でてきたお母さんにそういうと、お母さんはいった。
「ともきくん、お隣の友達はだあれ?」
「けいたくんだよ!」
僕も白い布をめくってお母さんに顔を出した。
「僕だよお母さん!」
するとお母さんは顔を青ざめせて叫んだ。
「きゃ、きゃーーーーー!!」
突然叫んだお母さんに、僕らはきょとんと顔を見合わせた。
「どうしたの、けいたくんのお母さん」
するとお母さんはいった。
「けいたはもう、死んでるのよ」
おわり